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はじまりました、突然思いつきで書き連ねるこのコーナー。今回の本はウィリアム・ソウルゼンバーグ著「ねずみに支配された島」。自分のための覚え書きが9割。
まず、この本のタイトルは「ねずみに支配された島」ですが、元の英題を見れば分かるように、本書が扱っているのは野生の楽園である地域(主に島。島と言うのは、捕食者の侵入がない環境下で独自に進化する生物も多い)に、本来そこにいなかった生物が"人為"的に侵入し、そこに本来あった生態系を如何に破壊してきたか、というもの。そしてもう一つ、そのような危機的状況から脱するために、人類はどのような作戦を実行したか、その成果は?というもの。本書で登場するPredators(侵入者)にはネズミだけでなく猫や狐、更にはヤギやブタまで含まれており、一見愛らしく見える動物さえも、生態系の崩壊を招き得ると言うことが書かれています。とはいえ、もっとも多くの文量を割かれているのはネズミです。 例えば、ニュージーランドにおいて、ネズミの進入によって、飛べないオウムの仲間、カカポが失われて行く課程であったり、アラスカ州の崖で繁殖するウミスズメの仲間が激減した事例。北極圏の崖で繁殖するウミスズメ類の数は圧倒的で、端からはその数が衰退している様子を汲み取るのは難しい。しかし、よく見れば、個体の中で最も栄養価が高い脳みそと心臓のみを食われた死体が岩陰に無数にあり、その数から計算すると、無数にいるように思えるウミスズメでさえも、数十年のうちに地球から失われてしまという恐るべき計算式が成り立つそうです。 我々が調査で訪れる島でも、猫やネズミにやられたと思われるミズナギドリ類の遺骸を見かけますし、最近では、アホウドリ類のヒナが生きたまま傷口から肉をネズミに食べられているショッキングな写真がSNSで出回っているのを見ました。繁殖地で親を待つアホウドリの雛はぷくぷくしたオイルタンクのようなもの。天敵のいない島で繁殖するウミスズメと同様、無防備な彼らは捕食者にとってはこの上ない食糧となるのは想像に難くありません。あるいは、直接的に攻撃を与えない場合でも、植物を食い尽くすことで周囲の環境に改変を加え、結果的に生態系のバランスの崩壊を招く場合も。 ネズミの拡散の歴史は、人類の航海の歴史と被ります。積み荷に紛れて各地を旅し、辿り着いた先で爆発的に数を増やし、あっという間に勢力を拡大してきました。本書はその途方もない数のネズミを徹底的に島から排除し、原生の自然を取り戻すまでの経緯が軸です。 しかし、ネズミたちが各地に侵入するにあたっては、人類が多大に手助けをして来たことが明らかです。にも拘らず、全体を通して彼らを「侵入者」「忌々しい敵」と表現するなど、忌むべき対象として認識するように一貫して誘導されています。その一方で、本来は「いかにして侵入者を駆除するか」という目的のもとで研究をしていたネズミという生物に対し、研究を進めるに連れ研究者たちがネズミの持つ知性や能力の高さ(例えば、毒餌を食べて苦しむ他個体を見るとその餌を避けるようになる、海を数百メートルも泳いで移動する)に驚嘆し、愛らしさまで感じている様子が書かれています。「ネズミ算式に」増えることで、人間が作った毒餌さえも見抜く性質を持った優秀な遺伝子が個体群中で急速に増えるなど、変化や揺さぶりに強いと言う点でも優れています。実際に、知性や能力の高さを感じられる例を書き連ねた章では、読んでいる自分も、もっとネズミたちのことを知りたくなるような、野生動物としての優れた面を感じさせられるものでした。 最終的に、成功した駆除策と言うのは主に2つ。ひとつは「毒餌」およびその散布手法の開発。そこで様々な毒餌を開発することで島のネズミを根絶することに成功します。これにより、ネズミの根絶には劇的な効果があり、ネズミが1匹もいなくなった島では、原生の自然が戻りつつあることが示されています。その一方で、スカベンジャー(腐肉食の動物)は、このような毒餌を食べて体内に毒素を蓄積し、実際に死亡している例も見つかっているとのこと。しかし、駆除前よりもその島で繁殖する生物の多様性は上昇し(それは、オリジナルの状態=侵入者が侵入する以前の水準 なのですが)、数年のうちに一時的に失われた種も戻ってくるとのこと。短期的に見れば、毒餌を食べた"個体"は死ぬものの、長期的に見れば個体群の維持には有益に進むこと。この視点を持ち、時にドライにならなくては自然回復事業には取り組めないことがわかります。 もうひとつはより直接的で「銃殺」です。ハンターを雇い、徹底的に侵入者を撃つ。そのために、女性ホルモン投与によって雄を惹き付ける能力を高めた雌を囮に使い、おびき出された雄を撃つなど、倫理的にギリギリのところで行われている作戦も多々。 問題は、ここで死ぬ動物種。ここで人間のエゴイスティックな思考が問題になります。つまり、ネズミが死ぬのと、猫や狐、ハクトウワシが死ぬのでは死の重さが違う、と考える性質。大事なのは、作戦に関わっている人たちでさえ、何も喜んで侵入者を殺しているのではなく、(ネズミの知性に虜になった研究者のように)痛みを感じつつも駆除に関わっているということ。この感情が理解できないと、0か1の、極端な議論が起こり、互いに歩み寄ることができなくなると感じます。「護ることは殺すこと」。殺すことの痛みを感じつつ、しかし、この一時の痛みを耐え抜くこと(そこには、新聞の投書、世論、そして動物愛護論者たちからの批判も含む)により、原生の生態系を取り戻す喜びに触れることができるはずと信じることが大切です。この状況を、ガン患者に対する副作用を伴った治療、とした表現は秀逸だと思いました。 さて。 読みはじめはたくさんのカタカナ語の地名や、独特の語り口調、言い回しに読みにくさを感じましたが、無理矢理読み進めて行くうちに解消されて行きました。これからの世代で失われる種類が少しでも減るよう、みなさんにぜひ読んでいただきたい良書であると思います。
by taka_s-birds
| 2016-05-03 00:22
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